日々繰り返される神子としての生活と、それに伴う浄化による力の消耗で、気丈に振舞ってはいるが、生気の乏しい表情が見えることもあったゆきである。

しかし、ここ数日は目に見えて表情が明るい。
特に都と顔を寄せて何か語り合っては楽しそうに笑い声をこぼすこともあった。

八葉たちは、一様に不思議に思いつつも、ゆきがほころぶように微笑む姿は心浮かぶことであったし、相手も都であったことから、何か女性同士思うところがあるのだろうと、特段気にはしていなかったのだった。

【瞬の場合】

「ゆき、本当に行くのか?」
「もちろん。どうしたの都?」
「いや、あの朴念仁のところにハロウィンって言ってもなぁ…」
数日前から都と相談して準備をしていたハロウィンの真似事遊び。
辰巳屋に滞在する八葉たちを驚かすという試みは今のところ順調だった。
龍馬然り、チナミしかり、あの小松もだ。
意気揚々と、次は瞬のところへ向かおうとしたゆきを留めたのは都の重い足取りである。
「大丈夫だよ。瞬兄もハロウィンは知っているもの」
「そりゃそうだけどさぁ…」

今まさに飛び込もうとしていたのだ。
当然部屋の最寄りでのやり取りとなり二人の気配を瞬が見逃すはずはなかった。
スッと襖が開かれて現れたのは無表情の瞬である。
「あぁっ!」
「うわぁ!」
慌てて布団を被ろうとするも、遅い。
「一体何事ですか。ゆき、それに都、お前まで」
「あのー、そのハロウィンだから皆のお部屋を回っていたの」
冷えた雰囲気の中、そこは都を巻き込んだ責任もあってゆきが説明する。
「ハロウィン…。ゆき、その布団はどこから持ってきたんですか?」
「え、これは女将さんに言って借りたの」
ふ、と考えるように口元に手を当てた瞬はなおも続ける。
「その髪ひもは?」
「これは女将さんが…」
「その紅や絵の具は?」
「それは女将さんが…」
「紙は?」
「えーと、女将さんが…」
瞬が大きなため息をついた。
「女将は、ずいぶんと面倒見がいいんですね」
「ほ、本当だよ!」
「別に、疑ってなどいません。そうですか、後でお礼を言わなければ」
ゆきの保護者を自認する瞬の脳裏には、気の良い辰巳屋の女将が浮かんでいた。
一方、たくらみが実行する前に泡と消えてしまった後、次々と質問を投げられたとあって、ゆきは少々ふくれている。
「おい、瞬。折角、ゆきがお前なんかもハロウィンに入れてやろうって来てるんだぞ」
都が、ゆきの肩を抱き寄せながら睨みつける。
「ああ、分かっている。ゆき、どうぞはじめからお願いします」
「でも…」
完全に分かったうえで驚かせにかかるなんて、ちっとも面白くない上に難儀である。
「まったく仕方がない…」
うなだれる少女と威嚇する少女。
二人を前に瞬はもう一度軽くため息をついた後、部屋へ戻ってしまった。
「何だあいつ。だから嫌だったんだ」
「都…」
そんなこと言わないで、と続ける声が消え入りそうだ。
確かに、今日の瞬は少し冷たい。
ゆきがうな垂れた時、再び襖が開けられた。
「俺はいたずらされるのはごめんです。これをあげますから次へ行ってください」
瞬が何やらごそごそと小さな包みを取り出す。
「瞬兄…」
「何だ、しっかり用意してるんじゃないか」
都が呆れた風に言う。
「何か疲れた!ゆき、向こうで休もう?」
そのまま歩いていってしまった都を目で追いながら、ゆきは瞬に視線を戻す。
「あの、瞬兄お菓子ありがとう」
「どういたしまして」
「もしかして怒ってる?」
どこかまだ冷んやりした声音に、つい問いかける。
すると、瞬が苦笑した。
「いえ、怒っていませんよ。ただ…」
「…?」
「あなたが、八葉たちに可愛らしい姿で訪ね回っていると思ったら、面白くなかっただけです」
まして、イタズラするぞ?なんて、頼むから口にしないで欲しい。
「じゃあ、瞬兄もお化けをやる?」
瞬の気持ちを知ってか知らずか。
あさっての提案をする少女の頭を撫でる。
「俺は結構です。気をつけていってらっしゃい」
「瞬兄?」
突然の瞬からのお許しに、ゆきはキョトンとしてしまった。
でも、その声も顔も確かに笑っていたから。
「うん。いってきます」
ゆきは、布団を引き引き、次なるターゲットを探しに向かったのだった。

 

(2012-10-31up)