鮮やかなリボンのかかった箱を前にして、リンドウは椅子の背にもたれかかっていた。
箱の中身はヒールのラインが美しい淡い色合いの靴だ。
勿論、ゆきへの贈り物である。
他の誰に指摘されるまでもなく、自身がゆきに対して過剰な愛情を持って接していることは自覚している。
例えば、それは贈り物の数だったり、品目だったりからも伺えるだろう。
とかく、ゆきを愛でて持て囃したいのだ。
そういう欲求がある。
だから、彼女を懐柔するための手段としてではなく、彼女に贈り物をすること自体がリンドウの欲求であり、結果なのである。
そして、その贈り物によって、ゆきがさらに心身磨かれて美しくなっていく様を見るのが幸せだった。
(完っ全に、お貴族さま的趣味全開だよね……)
今も昔も。
そういうことが出来る環境にあったから、行為自体には違和は感じない。
おかげさまで、ゆきの世界でもそれなりの甲斐性はあって、彼女の為の贈り物に困ることはない。
ゆきは、合間を置かず差し出されるそれに困惑していたが、リンドウの尺度からしたら、今の状況はかなり控えめと言ってよいだろう。
むしろ、異世界にいたら今よりずっと地位も財も懐にあった。
今とは比にならぬことになっていたに違いない。
当然、正装になる衣は最上のものを用意しただろうし、普段着も四季折々で取り揃えるだろう。
櫛も、簪も、鏡台、文机、筆記具に至るまで。
最良のものを見繕い与えたい。
慶喜などが聞けば眉を顰めるだろうが、知ったことではない。
自分は武家の大将ではないのだ。
だからといって、地方大名の豪奢な支度とも違う。
品良く上質なものは当然のこととして囲ってしまいたい。
だから、今日も贈り物を手に和やかに差し出す。
訪ねてきた彼女に、やんわりと、しかし有無を言わさずお強請りする。
「ゆき、足を出して」
「だから、それは頂けません」
「どうして?君にぴったりの大きさで作ったのに。君にしか履けないんだよ?」
細い足首をとって引き寄せる。
手ずから履かせれば、足首からヒールまでの華奢なラインがぴたりと馴染んで麗しい。
そのまま左手を膝裏に入れ持ち上げ、右手はつま先を掴み恭しく己の胸元まで掲げる。
彼女が静止するのを黙殺して、足の甲に口付けた。
「やっぱり、とても似合ってる」
目を細めて見上げれば、頬を染めたゆきが複雑な感情をその顔に浮かべていた。
「あの、私本当に……」
「君の感覚では受け容れられないのかもしれない。良心が咎める?」
彼女が思っていそうなことを口にすると、ゆきが目を何度か瞬く。無言の同意だろう。
「なら、そんな感情は捨てて。いらないことだよ」
わざと、強い口調で断言する。
「僕がしたいことを、出来るからやってる。贈り物を拒否するのは君の自由だけれど、贈る事を辞めさせるのは出来ないよ。それは、僕の自由だから」
「リンドウさん……」
「気に入らないならそう言っていいんだよ。違うものを探すから」
彼女が拒否出来ないのを知っていて、わざと念を押す。
「僕は君が好きで、君も僕を好き。気持ちは大切だけれど、気持ち以外にも僕は君に沢山のことやものを贈りたい」
望むものも、望まないものも。僕の手にし得るすべてを君に捧げたい。
「リンドウさん、私……」
困惑した表情を隠せないまま、ゆきが言う。
「贈り物は嬉しい、です。だけど、私その…どうしたらいいのか」
「ありがとうって、笑顔で言ってくれたらそれでいいのに」
じわじわと追いつめる。
その細くて折れそうな脚を、男の手に捕われたまま彼女はうっすらと微笑んで言った。
「あの、”ありがとう”ございます」
「うん」
彼女は、真っ白で綺麗すぎる。
神子を辞めてからも平かな考えを捨てない。
そんなのは、ずるいじゃないか。
もっと、傲慢な程強く求めて欲しいのに。
早く、早く本当に僕のところに。
この手元に、墜ちてくればいいのに。
「君が好きだよ」
【終】
(2012-07-21up)