リンドウ邸を訪れた小栗に、直々に呼び出されたゆきである。
常には無い事で、心なしか足が竦む。
都などは、初めから詰られるのだと決め付けて、ゆきを庇うべく同席すると言い張ったのだが、呼びにきたリンドウにすげなく断られた。
室に移動する間中、強張った顔をしているのを見てリンドウが苦笑する。
「神子殿、別に慶くんは君をとって食おうと呼んだわけじゃないよ」
「は、はい…」
それでも解けない緊張を見て、しかし、仕方が無いか…とリンドウは呟いた。
室に辿りついて、リンドウが襖越しに中に声を掛ける。
「御奉行、神子殿をお連れしました」
「入れ」
短い返事が返ったところで、肩を押される。
「それじゃ、僕はここまで」
「え!?」
「ほら、早く行かないと慶くんが待ってるよ」
「は、はい!」
その声は可哀想なほど不安気で、翻っては小栗が気の毒に思えるほどであった。
さて、ゆきが恐る恐る室に足を踏み入れれば、小栗が姿勢を崩すこともなく鎮座していた。
「どうした。近う寄れ」
事もなげに言ってくれるが、どうしたって足取りは重くなる。
「あの…」
珍しく、ゆきの方から言葉を継ぐ。
「なんだ、神子」
一寸溜めを作ってから堰切ったように言い募る。
「あの、私なにか間違えたことをしましたか?その、上手く行っていないこととかはいっぱいあると思うんです。他にも江戸の中で大変なこと、あると思うんです。それで、私…。他にも出来ることがあれば…」
これには、小栗の方が面喰らってしまった。
「どうしたのだ。何かあったのか」
逆に問うと、ゆきは黙ってしまった。
何も、小言を言おうと呼び出したわけではない。
神子に与えた任務は着々とこなされている。それは、彼女自身が分かっているはずだ。
それでも、晴れ切らない空と同じように時折、少女の胸中も乱れるのだろうということは何と無く理解できた。訳なき焦燥や不安には覚えがある。
しかし、それを己が想起させていると思うと、憤りを通り越して少しばかり胸が痛い。
つい、溜息を吐いてしまう。
そんな小栗の姿を見て、ゆきが視線を合わせてくる。
この少女の不思議さは、これ程に不安を抱かせる相手に対しても目を逸らさないことだ。
不安につけ込まれて骨の髄まで支配されてしまうとは思わないのだろうか。
(いや…)
一見、何も映さないのだろうと思うほどに静かな瞳は、奥深くまで、ただただ澄んでいた。
気を取り直して言葉を継ぐ。
「つつがなく日々こなしていると、報告を受けているが」
小栗は、やけに柔らかな声音になっていることを自覚しながら今一度問いかけた。
「気になって。少しでも江戸の市中は良くなっているでしょうか」
「そなたの目には、変化は感じられぬか」
「……」
「確かに、劇的な変化を望んでもそれは難しかろう。何事もそういったものだと理解している。急な変革を成すならば相応の代償を払わねばならぬこともだ」
だから、それ程までに気に病む必要はないと。己が理解を示す用意があると告げたつもりだった。
しかし、表情は変わらない。少女は蒼白だった。
「時間がないのに…」
微かな声は確かにそう言った。
その意味は分からない。だが、不吉な言葉だった。
誰の、何の時間が足らないのか。
リンドウは、何か大切なことを報告していないのではないのか。
僅かばかり、腹心の部下を疑ってしまったが、すぐに気を取り直す。そもそも、このような話をするために少女を呼び出したわけではない。
小栗は、自身の右寄りに置いたままになっていた重箱を引き寄せて、ゆきと自身の間に据えた。
「勇むのは構わないが、空腹では働けなかろう」
「大丈夫…ですよ?ちゃんと、食事はいただいています」
相変わらず素直なゆきの物言いに小栗は苦笑したあと、柔らかな笑みとともに言葉を継ぐ。
「空になるのは何も臓腑のことだけではあるまい」
開けてみよと促されて、ゆきは重箱の蓋をあけた。
「わぁ…!」
思わず感嘆の声が漏れる。
美しい漆塗りの重箱には、色とりどりの上生菓子がきれいに並んで詰められていた。
続けて二段目をあければ、ぎっしりと詰められた色も鮮やかな可愛らしい落雁である。
「そなたに下げ渡す」
「いただいていいんですか?」
「ああ、すべて神子のものだ」
「ありがとうございます!あ、これは水仙ですね。こっちは牡丹かなぁ」
さっきまでの憂いが嘘のように。ゆきは、丁寧に礼を述べたかと思えば、重箱の菓子に夢中になっていた。
あまりに稚い。しかし、どこか陰のある表情は消え去り、ただただ、陽だまりのような笑みを漏らしている。
「僅かでも、胸の痞えはとれたか」
「え?」
緩く微笑んでやれば、得心したのかゆきが告ぐ。
「もしかして、心配してくださったんですか」
あまりに直球な物言いに、ただ是と答えるのは余り面白くなくて、少しだけ婉曲なやり取りを投げる。
「よく働いている褒美をやれと。少しばかり疲れているようでもあるからと、リンドウが進言してきた」
「リンドウさんがですか」
本当は、少し違う。
褒美をという話になったのは事実だが、もう少し意地悪い理由でだ。
さて、何をやるのだ…という段になって、薩摩の家老が菓子で懐柔したようだとリンドウが言う。
「絹か調度かと申しつけたが、神子は物は受け取らぬと言うのでな。ならば、何が良いと聞けば菓子が良いと言う」
少し意地悪く笑みに乗せて言えば、目の前で重箱を手にしていたゆきが赤面する。
「そんな、もう…」
「くっ…」
あまりに、その様が可愛らしく滑稽で思わず肩を震わせてしまった。小栗にあっては珍しいことだが、今は二人だけ。誰も指摘などしない。
「なに。丁度、行事などあって縁起菓子を作らせていた菓子屋に納めさせた。悪いものではなかろう」
「あの、ありがとうございます」
「構わぬ。ますます精進せよ」
小栗の言葉に応えをするでもなく、再び蓋を開けた重箱を見つめたゆきが、何気なく問う。
「それで、小栗さんはどれがいいですか」
問われた意味が分からず、沈黙する。
「私は、やっぱり牡丹が気になります。小栗さんは梅の…」
ゆきが顔をあげると、怪訝な顔が目に入った。
「どうされました?」
「それは、私の方が聞きたい」
「小栗さんは、どのお菓子がいいですか」
小栗が深い溜息をつく。
「それは、そなたに下げ渡したものだ」
「だけど、折角ですし。沢山あるから皆で分けても数は十分あります」
小栗の言葉の意味など、どこ吹く風でゆきは微笑む。
この神子は、聡いくせにどうも言葉を正しく理解していない時がある、と小栗は思った。
もっとも、本人は意識外に己一人の手柄とせず、仲間皆を慮ろうとしているのだろうことは分かる。
しかし、それはそのまま彼女の甘さを表していて、いつかそれが志の妨げになるのではないかと。
度々苦言を呈していた星の一族の言葉が甦り、小栗を得心させた。
「では、改めて言おう。それはそなたに下げ渡したものだ。気遣いは無用だ」
「そう、ですか?」
「それと、やはり神子の褒美として菓子では不足したらしい。別に褒美をとらす」
「え?」
困惑した表情を返す少女に、小栗は断固として言った。
「それは、公儀よりそなたへ褒美として与えたもの。このように跡形も残らず人手に渡るのも困る」
「あの、そんな」
「神子、そなたの願いを一つだけ聞き届ける。ただし、際限ないものは不可能であることは弁えよ」
先ほどまでの朗らかさはどこへやら。再びゆきの顔は青白くなっている。
「期限は明日までだ。明日、願いを申し伝えに参れ」
「大層な意地悪をしますね。本当に御奉行は怖いな…」
「お前が甘やかした結果だ。反省しろ」
退出する小栗に付き従うリンドウに事の顛末を話すと、肩を竦めつつ面白そうに笑う。しかし、暗に匂わせるのは不満だ。
「はいはい。それで何でしたっけ」
小栗がゆきに告げた条件は二つ。
『期限は明日まで』そして、『小栗の権限で叶え得る範囲』の願いであること。
「どうしたものかな。彼女は決められると思いますか?」
「さてな。それと、俺を利用して神子を追いつめるような真似をするのはやめろ。乗るのは今回だけだ」
「ああ、そうですね」
右から左へ受け流す様に公儀の目付は言うと、駕篭に乗り込んだ主に声をかけた。
「それでは、明日もお待ちしていますよ。神子殿のこと、宜しくお願いしますね」
最上級の厭味と艶やかな笑顔に送られる。
今夜の夢見は悪そうだと小栗はひとりごちた。
結局、小栗との面会を終えて下がった後も誰にも相談出来ず、ゆきはひとり部屋で悩んでいた。
貰った菓子は、都をはじめ、邸に居る皆に配った。
大抵の者は驚き喜んでいたが、チナミや丁度邸に立ち寄った小松などに勧めると少し怪訝な表情をしていたように思う。
(やっぱり、私が何かへんなこと言ったのかな……)
はじめは柔らかだった小栗が、最後に断固としてあのような条件を告げたことを、ゆきは理解出来ずに居た。
迷いと戸惑いを抱えたまま、足が向いたのはいつもの睡蓮の池であった。
「ああ、神子殿」
そこにはやはりいつものようにリンドウが居た。
「こんばんは、リンドウさん」
「また暗い顔をして。御奉行に叱られた?」
「いいえ」
叱られた訳ではない。だが、些細なすれ違いから課題を与えられた。
しかし、その理由を分からないでいる事をリンドウに伝えるのは少し怖かった。
―――君、神子をやめる気はない?
また、そう言われるような気がして。
ただ、黙って池の水に手を浸しているとリンドウが横に並んだ。
「ねぇ、神子殿。君の純粋さは美徳であるし、己を省みず他人を立てるのも悪いことじゃない。だけど、果たしてそれだけが正解だと言えるのかな?」
「どういう意味ですか?」
「もう少し思慮を持つことも必要じゃないかな。信念を貫くにはただ真正直であればいいというものではないよ。君、相手の気持ちを本当に考えた事がある?」
「相手の気持ちを…ですか?」
いつだって、自分のことは二の次で。そう、周囲からたしなめられることはあっても、人の気持ちを考えた事があるかと聞かれたことはなかった。
「嬉しい事は嬉しい。悲しい事は悲しい。それは正しいけれど、すべてが君の考える通りだとは限らない。ねえ…」
リンドウは言葉を切ると、ゆきの顔を覗き込んだ。
「君と僕とは違うでしょう。君が思う通りに僕が思うとは限らないんじゃないかな」
「それは……」
返す言葉がないまま俯く。そんな姿を見て、リンドウは少し語気を緩めてゆきの隣に座りこむ。
「多分、君には分からないだろうな」
「そんなことないです。分からなくても考えます」
「無理するような事じゃないよ。それでもいいんじゃないかなって、僕も思うから…」
ただね、と前置きしてリンドウが首を傾げた。目の前の花はますます光り輝いて花弁を散らし続けている。
「あまりに明け透けに自分をさらけ出して。自分を犠牲にすることも厭わない姿を見ていると不安になるんだよ」
「リンドウさん……」
「皆が、君のそういう姿をどう思っているか分かる?分かっていて貫くのなら誰も何も言わない」
(分かっているのかも分からないから不安になるんだ…)
リンドウの言葉を反芻しながら、部屋に戻り襖戸を閉める。
ゆきは、すでに用意された床にしゃがみ込んだ。
「時間が無いのに……」
日に日に腕は透けて行き、蓮の花も少なくなっていく。
それなのに、漠然と思いばかりは積もって、しかし、自分には分からない事だらけで皆に心配をかけている。
明日は、小栗に自分の願いを伝えなければならない。
「私の願いごとって、何だろう」
改めて考えてみれば、恐ろしい程に頭には何も浮かばなかった。
思わず両腕を抱えると震えが走る。
―――江戸の平穏、市中の皆が幸せに暮らせる様に。
例えば、そんなことを自分が小栗に願えようか。
(願ってどうするのだろう。それを小栗さんに叶えて欲しいと私が言えるの?)
心が決まらないまま、床に潜り込む。
私は、どうしたいのか。
やはり降り積もるのは、漠然とした物思いばかりだ。
目をきつく瞑り、ただ無心であろうと念じ続ける。
やがて、眠りに落ちた。
夜も更けているにも関わらず、眠りは訪れず燭台の灯りも尽きようとしていた。
蝋燭を足すために近侍を呼ぼうとして止める。いい加減、諦めて床に入るべきなのかもしれない。
書き物の手を止めて、小栗は燭台の灯りを消そうと膝を進めた。
耳を澄ませば、灯芯を焼くチリチリという音が聴こえる。
ゆらめく灯りは、まるで、あの少女の心を表しているようだった。
今にも消えそうで儚く、しかし思いを秘めて熱い。心決まらぬように揺れ続けている。
龍神の神子は、小栗の前でいつもそうだった。
怯えていたかと思えば、ほころぶように笑み、次の瞬間にはこの世の終わりを見たような顔をする。
平時であれば、少女の幼さゆえの移り気と思えない事もないが、彼女の置かれた状況を顧みるに不安定な心を案じずにはいられなかった。
(いっそ、ただ不安に泣き、歓声をあげ、愚鈍に喜べばいいものを)
小栗を恐れているくせに、与えられれば媚び喜んで見せるような、ただの女であったら良かったのに。
そうでないからこその龍神の神子であり、娘の価値なのだから、この物思いは全く無駄だった。
そして、常々、彼女に対して子どもじみた意地悪さを見せていた従兄が存外、神子の歩みに気を揉んでいたことも意外な発見だった。
(しかし、それも当然か…)
神子を哀れに思おうとも、ある程度は思惑通りに歩んで貰わねば首が締まるのは使う側だ。
そのことを、発案者たる従兄殿は良く分かっていた。
だからこそ、小栗を利用してまで彼女の道を曲げて、縛り付けようとしている。
せめて、その結果が成就せねば、余りに二人が哀れであった。
だがしかし……。
一寸の後、我に返る。
何を考えようとしたのか。
働きが鈍くなりつつある頭を振った。
引き返すには遅きに失している。
人を縛るには契約が必要だ。
それ故の褒美であった。
褒美…報酬を介して契約に縛る。
哀れになど思う必要はない。
引き換えに得られるものが、旗本であれば俸禄であり、自分にとっては日本の安寧秩序であるだけだ。
神子にとっては龍神の奇跡であるだけなのだから……。
翌朝、いつものように市中へ怨霊の浄化に出るものの、どこか気はそぞろだった。
少し後ろからついてくるリンドウには、そんな心を見透かされて居るのではないかと、ゆきは気が気でない。
まだ、漠然とした物思いはあれども、言葉として纏まりそうもない。
やがて昼を過ぎて、日が傾きはじめる頃合いだった。
「さて、そろそろ打ち止めと言ったところかな」
同行する小松が口にした。
「申し訳ないけど、所用があるから私はここで失礼するよ」
皆がうなづき見送る中で、ふと身を屈めて小松がゆきに耳打ちする。
「ゆきくん。そう簡単に気を許すのではないよ」
「え?」
そのまま、去り際に、さらに釘を刺すように言う。
「仮にも、神の遣いだという子を俗世の争いに巻き込むだけでなく、策を弄して陥れるのは感心しませんね」
「忠言痛みいるよ、帯刀くん」
そうと名指しされた訳でもないのに、当然のごとくリンドウが返答した。
「まあ、策でも何でもないし。京には神の末裔たる方を弄ぶ輩も居るんだから、今の世に秩序などないよ」
「二人とも、往来で話すことではないでしょう」
「帯刀、早く戻らにゃ藩邸が騒ぎになるんじゃないか」
流れる不穏な空気に、瞬と龍馬が割って入った。話は中断される。一同は帰途についた。
リンドウ邸への帰路、何処となく重い空気が流れる中で、リンドウがゆきの隣に並ぶ。
「さっき、帯刀くんが言っていたことだけれど、良く肝に命じるんだね」
「…どういう意味ですか」
「まだ分かっていないみたいだから言うけれど、御奉行が君に褒美を与える意味をよく考えた方がいい。君なら分かる筈だよ」
訝しむゆきと目を合わせることなく、告げる。
「龍神の力は、命の代償でもあるし、献身への褒美でもあるってこと。君は知っているよね」
小栗忠慶が邸に到着したと聞いたのは、夕餉の時間も過ぎた夜半だった。
いよいよ対面する段になって、ゆきは逃げ出したい気持ちを必死に抑えつけた。
室の前までくると、以前の様にリンドウに肩を押される。
「失礼します」
室には、無言で小栗が座しており、ゆきは恐る恐る下座に歩を進めた。
再び二人きりで室に残され、沈黙が続く。
昨夜からずっと考えても分からずにいたが、小松やリンドウの再三の忠告で朧げながら自身に求められているものが見えそうにはなっていた。
恐らくは、自身の不安が身から滲み出ているのだろう。
隠そうにも、今のただ漠然と歩む日々に対して不安の源は大き過ぎた。
考えなくてはと思う。
無理矢理するようなことではないと、リンドウには言われたけれども、いつかは苦しんでも出さなければならない結論もあるだろう。
ただ、その為にはゆきはもっと知らなくてはならなかった。
「願いは決まったか」
ようやく、小栗が口を開く。
ゆきは、ゆっくりとうなづいた。
「ならば、申してみよ」
「…小栗さんの話を聞きたいです」
ゆきの答えに、またしても不可解な言葉を聞いたと言わんばかりに小栗の眉が顰められる。
「どういうことだ」
「はじめ、私は右も左も分からない状態でリンドウさんの話を聞いて、お互いに利があるからと江戸の浄化を始めました。でも、今の私はそれだけでは前に進むことに不安を感じています」
時々、足がすくんで今にも止まってしまいそうになる。
その度に、自分がやらねばならぬと言い聞かせて顔を上げてきた。
頭を過る物思いに膝の上の掌を握りしめた。
「小栗さんが支持する一橋派のことを教えてください。小栗さんはどう考えているのか。何が小栗さんの背を押しているのか…」
「聞いてどうする」
抑揚なく告げられる平坦な低い声音に背筋が震えたが、拳を握り直して堪えた。
「知らなければ、心がついていけないんです」
「……さようか」
相槌のあと、再び沈黙が続いた。
ゆきは、言ってから少しだけ後悔した。
江戸を知りたい、政情を知りたい。
……小栗を知りたい。
少しずつ踏み込もうとする自分を拒絶されない確証などなかった。
それならば、神子など必要ないと言われぬ保障がどこにあっただろう。
否、必要ないと言われることを、何故自分は恐れているのだろう。
それでも、一度こぼれ落ちた言葉は止まらなかった。
「…以前、 小栗さんは体調が悪そうなのに、それを黙って堪えていました。小栗さんがそこまでする理由って何ですか」
「それを知れば、そなたは歩み続けられるというのか」
頭上に降った言葉に弾かれて顔をあげる。眼前に居た筈の人物が立ち上がっていた。
(怒らせた…)
見上げたまま拳を握る。
「この取引がどのような意味を持つか、そなたは知って申しているのか」
見下ろす瞳はいつかのように底冷えのする冷たさだった。
しかし、引くことは出来ない。
引けば全てが終わってしまうと直感した。
「…分かっています。私は白龍の力を使う神子ですから」
「ほう…」
「私は白龍の神子となる代わりに、神の力を使っているんです」
言い切って再び俯くと、近くで衣擦れの音がした。それを合図に目線だけあげると、小栗が去ろうとしているところだった。
「あの…っ」
「よかろう、そなたの願い聞き届けた。明日、遣いをやるゆえ、それに従え」
「小栗さん…」
「明日の朝だ。ゆめ遅れるな」
その日の帰り、小栗はただ終始無言で考えこんでいた。
見送りに立つリンドウにしてみれば、傍にいる自分に対して一言も無いのが少々腹立たしい。
「御奉行、神子殿との話はどうなったんですか」
わざわざ聞くのもしゃくに障るが仕方が無いと割り切る。
刺がある言い方だったのに、当の本人はいつも通りの明快さで応える。
「明朝、遣いをやる。神子を借り受けるゆえ承知しておけ」
「はぁ…」
「供はいらぬ」
その言葉にぴくりと肩が反応した。肩に手をやりつつ首を傾げて問い返す。
「一体どちらへ行かれるのですか」
「後で神子に聞けばいい」
すげない対応に様々な可能性を思い描いた。さて、あの神子殿は御奉行に何を吹き込んだのだろう。
見送りのあと、その足で庭へ向かえば神子が居た。
この日課は覆されない。
水面を見つめる表情は変化なく虚ろで、しかしその虚ろが静けさの中で清浄にも見えた。
まるで、神と通じ合っているようで、それがリンドウには面白くない。
彼女が小栗に何を願ったのか、聞けばすぐに答えてくれるだろう。
それでも、何故か話しかけるのが躊躇われた。
「面白くないことばかりだ…」
どうせ、運命は変わらないのに。
明朝、約束通り遣いが来た。
リンドウに見送られ駕篭に乗り込んだものの、門を出る少し手前で密かに下ろされる。
困惑して辺りを見回せば腕を引っ張られた。
「…!?」
「行け」
短く命じられると、駕篭はゆきを置いたまま門を出て行ってしまう。
自身はいま、腕を取られ口が塞がれて声が出せない。
こんなことが以前もあった。そして、声に覚えがある。
「離すが騒ぐな」
首を振って承諾すると、手が離された。
「っ、小栗さん!」
「徒歩で行く。行くぞ」
声の主は、それだけ言うと振り返る事なく門をくぐった。
しばらくは、何も言わず後ろからついていったが疑問ばかりで問いかけたくなる。
「あの…」
「なんだ」
「どうして駕篭を」
「形だけだ。さすれば、駕篭の行く先に目がいくだろう」
「だったら、最初から言ってくれれば」
「要らぬ勘ぐりをされたくない」
「小栗さんが直接来られるなんて知りませんでした」
「告げていないからな」
答えは端的で、それ以上は会話が続かない。
「それでどこへ行くんですか」
ここで、初めて小栗が振り返った。
「水戸藩邸だ」
「…小栗さんは水戸藩の人だったんですか」
「…お前が属する一橋派の担ぐ公は水戸の出身だ。今や、只それだけの間柄ではあるが」
「でも…」
「もうよい、口を噤め。いたずらに名を出すと碌なことに巻き込まれかねん」
リンドウ邸から、さして遠くないところに邸はあった。
御三家として永く栄える大名家の邸は広大で、門番も物々しい。
しかし、正門を避けて裏口に廻る。そこには、水戸藩士らしい人が待っていて、小栗に深々と礼をした。
「小一時間で離れる。しばし待て」
「は…」
遠ざかって行く藩士を横目に中へ歩を進めると、眼前に梅林が広がった。
蝋梅の香りに、外れには低木の寒椿が咲いている。
「すごい…」
「まだ、盛りとはいかぬか」
ゆきが感嘆の声を漏らすと、それを拾う様に小栗が言う。
そのまま歩を進めると、奥まった場所の向こうに池が見えた。
「神子、そなたの願いは承知した。何でも聞け」
いざ、そう告げられると言葉が出ない。
ゆきは、ぐるりと周囲を見渡した。そして、ゆっくりと歩を進めながら逡巡する。
かつて尋ねたことのある薩摩藩邸などとは、随分と趣きを異にする庭だった。
リンドウ邸の庭とも違う。
様々な花が咲き乱れ美しいが華美ではない。趣向を凝らした建造物が立ち並び、歩を進めるごとに景色が変わるが整然としている。
これほど多くの面を持ちながら決して軽々しくはなくて、静かな重みを感じさせるのだ。
どことなく、この庭は小栗の印象に似ていると思った。僅かばかり目を伏せてから告ぐ。
「私は…、私の願いは自分の世界を元に戻して、この世界も失われない様にすることです。その為に、怨霊を浄化してまわっていると、江戸の人たちの生活を垣間みることになります。そうすると、私はこの江戸の人たちも大切だと思ってしまう」
「思ってしまう、とは」
「どんな人であっても、目の前で困っていたら助けたい。瞬兄とかリンドウさんとか、皆が言う事は分かるんです。私に出来る事は限りがあって、あれもこれもと欲張ってはいけないって…」
「さようか…」
「でも、時々、分からなくなります。私がするべきことって、私が出来る事ってなんだろうって」
「立ち止まれば、答えは出そうか」
「いいえ…」
やがてたどり着いた池の淵に座って水面を覗き込む。映った顔は虚ろだった。
「神子。私の志を尋ねていたな」
「はい…」
小栗の言葉に、彼の方を見上げる。すると、公儀の奉行は頭巾を外して同じ様に隣に座った。
そして、水面を見つめて言う。
「正直、私にも己の志はよく分からぬ」
意外な言葉だった。
「…え」
「しかし、やり遂げねばならないことはある。いわば、使命か。私が此の世に生を受けるに足る理由だ」
「やり遂げなければならない…」
「理由はない。なぜなら、私が私であるが故に与えられた使命なのだから」
小栗が薄く笑った。
「一橋派であろうと南紀派であろうと、私がすべきことは変わらない。世の便宜上、そういった名で分けられているだけだ。神子、そなたのなすべき事も、いずれに付くかで変わるようなことなのだろうか」
「いいえ」
「ならば、物思いに捕われず己がすべきと思う事をすればよい」
見つめた横顔はどこか影がさしていた。なのに顔では笑っている。
一瞬だったが、秘めた苦悩が透けて見えていた。
「そんな風に、自分で自分を縛るのは苦しくないですか」
「さて、分からぬな。心ひとつで、いかなる苦難も越えて歩み続けることが出来るのは人だけだ。それに、己の中で答えは出ている」
「小栗さん…」
「私は止まらぬよ。苦しかろうと、そうでなかろうと」
「そう…ですね」
ゆきは、小栗から視線を外して再び水面を見つめた。
(そうだった…。私も、今度こそは全て守ると決めたのに)
まだ、これから何度でも心は揺らぐだろう。しかし、物思いのどれも同じこの思いから発している筈だった。
「本当に…、そうですね」
言った自分の手のひらに、瞳に生気が戻るのを感じた。繰り返し言い聞かせる。
「気は済んだか」
柔らかいがはっきりとした声に横を見やると、先まで見えていた影は潜められて、いつものような清冽さを纏った小栗が居た。
「もういくつか、聞いてもいいですか」
「構わぬ」
「小栗さん、一橋公ってどんな方なんですか」
珍しく、問われた小栗の目が丸くなる。
「それは…」
「すみません。偉い人のことを色々聞くのは駄目なんですよね。分かっているんですけれど…」
無防備に、世間に名の知れた人物のことをあれこれ聞くのは、詮索をしていると疑われるだけだと、何度か瞬に注意を受けている。だけど、小栗やリンドウを動かして、しいては自分に繋がっているこの大名について、ゆきは聞いてみたかった。
思わぬ神子の問いかけに小栗は問いで返した。
「昨日言った事を覚えているか」
「すみません、どのことですか?」
「この取引がどのような意味を持つか承知しているかと」
「はい。それは、覚えています」
即答だった。またしても、ともすれば思慮にかけると思われる神子の反応にため息がでる。
まして、何故に人物を尋ねるのか。
およそ派閥の長など、奉られているだけで当人に意思などない。人となりを聞いたところで、近付けるべくもない。
真意を計りかね、重ねて問う。
「それなら、なぜ、物をねだらなかった。物であれば手元から離してしまえるのに。目に入れないことも出来る」
「でも、それでは駄目だと。だから、もう一度褒美を渡すと言ったのではないんですか」
それは思い違いだ。
菓子を与えたのだ。菓子ならば呑み込んでしまえば消えてしまう。自分ひとりで食べ切れば誰に感付かれることもなく、契約は腹の中に納められた。それなのに、彼女自身が道を外して踏み込んだのだ。
再度、機会は与えたのに彼女は思った道を歩まない。やんわりと繋ぐだけの筈だったのに、神子は限度を知らずに踏み込もうとする。
それと知っていて持ちかけたはずだろうに、結果的には従兄殿の慈悲は無駄になったわけだ。
加えて、尚も深みに足を踏み入れるとは、どういう了見か。
「公のことを知りたいのか」
「はい」
やはり即答で、もはやこのやり取りは覆らないだろうと小栗は観念した。
「…一橋公は、水戸藩主の七男でこの邸で生まれた。嫡子であったが同様の兄君が何人かおられたゆえ、およそご自身が世間に担ぎ出されるなど思ってはおられなかった」
それが、どういった訳か知らぬ間に神君の再来かと勝手に奉り上げられて、担ぎ出された。
「まったく馬鹿馬鹿しいことに、気付けば救国の志などと決めつけられて神輿の上に居たというわけだ。降りようとも両脇に刃を立てられて身動きが取れぬ」
「それで、代わりに小栗さんやリンドウさんが動いているんですか」
「なぜ、そう思う。派閥を勝たせるために神子を利用していると言っただろう。刃を立てている側かも知れぬ」
「でも、小栗さん。不安そうな顔をしていました」
考えてもいなかった言葉に胸を突かれる。
「一橋公が心配なんですよね。そんな風に意に反していたとしても、一生懸命務められているのを見て」
「気のせいだ」
「そうでしょうか」
これまで、そんな風に考えた事はなかった。確かに僅かばかりでも己の身を案じるものは居たかもしれない。
だが、総じて自分は孤独だった。己の苦悩を知る者は己だけだった。
告げても理解はされぬ。それに、いつ何時であっても内なる炎は秘めておくのが身に染み付いた教えだった。
ひとつ息を吸って、心を鎮めてから小栗は続けた。
「それほどまでに、他人の心を慮るのは神子の美点だが…」
「はい」
「気をつけよ。つけ込まれずとも、いつか受け止め切れぬ時が来る」
きょとんとした目で少女がこちらを見た。恐らくは、言葉の意図など分かってはいまい。
だからよせば良かったのに。彼女の願いは、完全に小栗の胸の内に刻み込まれてしまった。
言葉ひとつで、神子を縛る術を得てしまった。
「…そろそろ行くか。他に聞きたい事があればいつでも尋ねるがいい」
「え?」
「ここに居ては、冷える。まだ話があるならば道中聞こう」
立ち上がり歩み始めれば、神子が慌てて追ってくる。
「待ってください。あの、さっきの話…」
「神子の願いは有効だ。そなたが尋ね、それに私が答える限りは」
「でも、それは…」
「ああ。そなたが考える通りだろう」
与え続ける限り、この契約は有効だ。
それに、彼女の性質上、一度願ってしまったならば尋ねずには居られないだろう。
心揺れようとも、求める答えを得るまでは歩みを止めることなどありえない。
龍神の神子とは、そういった少女だった。
「お帰り、神子殿」
「ただいま帰りました。リンドウさん」
昼が過ぎた頃、リンドウ邸に戻ると邸はひっそりとしていた。
「思ったより早かったね。皆、今日は休息日にして外へ出ているよ」
「それで静かなんですね」
「御奉行との話はどうだったの。どんな褒美をもらった?」
リンドウにしては珍しく、興味津々といった風に聞いてくる。
「小栗さんに、ものは貰っていません。お話を聞きたいとお願いして…、いつでも聞きたい事は尋ねてよいと言われました」
「…ふぅん。そう」
リンドウの声が少し固くなったことに、ゆきは気付かない。
「随分、差し出たお願いをしたみたいだね」
「そう…ですか?」
「公儀の奉行が、神子とはいえども只の女の子の話をいつでも聞くと言っているんだよ」
あり得ないことでしょう?と、リンドウは言うと、思案するように首を傾げた。
「へぇ、そうか…」
「え?」
「気前のいい話には気をつけた方がいいよ、神子殿」
「は、はい」
「それで、神子殿はこの後どうするの?」
言うだけ言って、からりと話を転換する。
「あの、一度部屋に戻ります」
「そう。僕は自室で仕事をしているから、用事があったらおいで」
「はい。ありがとうございます」
そう告げてリンドウは踵を返した。後ろ姿を見送ってから、ゆきも自室に向かう。
部屋に着くと、障子戸が開けられていた。
清々しい空気と庭の色彩が目に飛び込んでくる。
冷えた空気を胸いっぱい吸い込んで息をついた。
(やっぱり違う…)
ゆきは、小栗に連れられた水戸藩邸の庭園を思った。この邸の庭とはやはり違う。
リンドウの庭は、言うなれば優しい女性の手のように、ゆきの心を慰める柔和な庭だ。
対して、藩邸の庭は、その広大さもあいまって、あれ程の静けさだったのにも関わらず圧倒するような気配が感じられた。
「でも、怖くはなかった…」
小栗との会話を思い出し反芻する。
脅かすように言われたが、ただ彼は案じてくれて居ただけだった。
(そなたが尋ね、それに私が答える限りは…)
はじめから、際限ない願いは叶えられないと言われていた。
だから、あの言葉は多分、与えられ得る最上級の褒美だった。
「いつかは、途切れてしまうの…?」
ぽつりと漏れた言葉は考えてみれば当然で、いつかゆきは役目を終えて元の世界へ帰る。小栗もまた、宿願を遂げれば次の道へと行くのだろう。
迷いそうになる心に、いつの間にかそっと灯りを燈して導いてくれた。
いつから気付かれていたのか。
(あのひとには、何が見えているのだろう)
使命のためには、苦しくても進み続けると言っていた。
何が、彼を突き動かしているのだろう。
それは、主君のためなのか。それよりも大きな何かがあるのだろうか。
小栗は、聡明なひとだと思う。
以前辿った時空で、ゆきは沢山の志士達の志を目の当たりにした。彼らは等しく懸命であるがゆえに愚直だった。
己の志が分からないと言った聡明なひとは、何を見ているのだろう。
自室の文机の前で、小栗は目を瞑っていた。
邸に戻ればひっきりなしの面会の約束を片付け、しばし脳裏のよろずごとを整理する。
「失礼いたします」
声とともに室へ入ってきたのは、一橋家にきてより長く仕えている近侍であった。
「どうした」
「随分と長く考え込まれているご様子でしたので」
小栗が眉を顰めると、差し出た事を申しました…と近侍は平伏した。
「よい。このところ物思いが多いのは自覚している」
「本日は、どうしてまた里の本邸へ参られたのですか」
恐縮した振りをして、差し出た事を聞いてくるのがこの近侍の悪い癖だった。
「…さてな。しかし、物思いに耽るにはうってつけの場所だと思わぬか」
「全くおっしゃるとおりで」
得心したとばかりに、再び眼前の男は平伏した。
ゆるく手を振れば、機嫌伺いも去って、再び室には小栗一人だけになった。
脳裏には、昼間、神子に言われた言葉がひっかかっていた。
不安気であるなどと、ついぞ言われたことなどなかった。
実際、己の抱えている不安とは何であろうか。
自身は尊王攘夷思想の強い家に育った。母は公家の出身だ。
しかし、今は徳川宗家の身内として生きている。徳川宗家とは武家の総領である。
人々は噂し、持ち上げては勝手に突き落とす。意に沿おうとすれば、貴方のお役目は正道には無いのだと言わんばかり。
何を企むやと勘繰られ、逆らえば、さもあらんと糾弾される。 時々、己は何を守っているのか見失いそうになる。
それはまるで、昼間の神子の述懐のようだった。
恐れるのは、何も守れずに舞台を去らねばならなくなることだ。
何を守るべきなのか分からずとも、自分は守らなければならなかった。
勝手に舞台に引きずり出されたという思いは拭うことは出来ない。
だが、何もせずに居る事は出来なかった。
なぜなら、それこそが己が生を受けた理由なのだから。
翌日、顔を合わせるなり開口一番リンドウが言う。
「昨日は有意義にすごされたようで」
「ああ、そうだな」
いつも通り、平坦な声音で答えればリンドウが面白くなさそうに口を尖らせた。
小栗に対して年上ぶるくせに、こういうところは際だって分かり易い。これは、嫉妬だ。
「あの危なっかしい神子殿がふらふらしないように、褒美をあげてくださいとは言ったけれどやり過ぎじゃないですか」
「そうか?」
「いつでも求められれば答えるだなんて、言い過ぎだ」
「そんな言い方はしていない」
「言葉尻など瑣末ごとですよ」
ひとしきり不満をぶつけたあと、ふと真剣な顔で従兄が言う。
「気をつけてよ、慶くん。僕は、神子殿も貴方も不安でしょうがないよ」
「それは、かたじけないな」
「本当に、気をつけてよね…」
リンドウの心配はもっともで、今の自分には余計な隙をつくる余地は無い。
周囲に虚勢を張ってでも、漬け込む余地は与えるわけにはいかないのだ。 何事もないかのように笑んでみせてから険しさを表情に乗せる。
「まあいい。リンドウ、先日の懸案について報告せよ」
「…、承知しました」
気付かねば過ぎ去っていたかもしれないのに。
僅かばかり芽吹いた思いが心に根を張って行く。
「どうした、ゆき」
「え、っと何でもないよ。ごめんね、都」
「ゆき、よそ見をしないで歩いてください」
ふと、背中を通りすぎるものを感じてゆきは振り返った。
それは、ただの勘違いだったけれど、何かが背中合わせに添うている気がした。
「おーい、お嬢!こっちだ」
「はい!」
呼ぶ声に、見えそうになっていたものを忘れて駆け出す。
やがて、その根は伸びて心に絡み付くのも知らず。
【終】
(2013-04-16up)