「どうしたの、ゆき?」

ある夜のこと。リンドウはゆきと話をしていた。
現代に戻ってからは、もっぱら携帯電話での会話で、ゆきが好きなときに使うことを許されている。
「夜遅くにごめんなさい。」
「いいよ。どうしたの?」
「…ちょっと、リンドウさんの声が聞きたくて。」
可愛らしい答に頬が緩むのを感じながら、リンドウは、大人の余裕を総動員して冷静を保つ。
「君、眠れないんでしょ。困った子だ。」
子ども扱いしないでください、とゆきが膨れているのは、電話越しでも容易に想像できた。
何か悩みでもあるのだろう。意地悪は早々に切り上げることにする。
「何かあった?いいよ、聞いてあげる。」
ポツリ、ポツリとゆきが話すのを真剣に聞きながら、携帯電話を肩に挟み、両手は取り出したお札を器用に折り曲げる。
ゆきが話終わるころ、
「さあ、できた。」
「きゃっ!」
リンドウが、お札から手を離すと同時に、電話の向こうから小さな悲鳴が聞こえた。
しかし、次の瞬間、
「わぁ、きれい…。」
「びっくりした?」
頭上には、色とりどりの花の蕾が開いては花弁を散らし、再び蕾になりを繰り返す。
同じものが、ゆきの頭上でも披露されているはずだ。
「もう…、急になんですかリンドウさん。私のお話聞いてましたか?」
ゆきが拗ねてみせる。
「聞いていたよ。大変だったね、ゆき。君は良くやっているよ。」
「…。」
「だからね、これはご褒美。少しは気が紛れた?」
おそらく、ちょっと悔しそうに頬を染めているだろう、ゆきを想像してリンドウは笑った。
「リンドウさんの意地悪。急に優しくしたりするし…。」
「心外だな。僕はいつもゆきに優しいでしょ。それを言うなら君こそ。」
「え?」
「困ったことがあったら、すぐに僕に言いなよ。遠慮する仲じゃないんだから。」
「でも…。」
「でも、じゃないの。大体、眠れないなら呼んでよ。君が眠るまで一緒に居てあげるから。」
「そ、そんなこと!」
声を荒げるゆきに、にんまりしながら、嬉々としてリンドウは続ける。
「つれないな。眠れぬ夜は僕を傍においてよ。」
「冗談ですよね?」
「じゃないよ。本気も本気。」
「~~っ!!」
湯気が出そうになる程真っ赤になっているだろう。式神なんか使わなくても、手に取るように君のことは分かるよ。
「もう、バカ。」
「君の恋人と星の一族の名にかけて誓うよ、ゆき。僕だけは、ずっと君の味方だから。どんなことがあっても、君を見限ったり、離したりしない。」
だからね、とリンドウは言葉を一度切った。
「安心して眠りなよ、ゆき。君が眠るまで花を咲かせるよ。」
「…ありがとう。リンドウさん。」
「いつぞやみたく、僕も一緒に寝ちゃう前に君も早く寝て。明日は、元気な君を見せて。」
ゆきが、ふふっと嬉しそうに笑うと言った。
「いつぞやみたいなのも、たまにはしてみたいかも…。今度は仲良くお花見しましょうね。」
「…おやすみ、ゆき。」

今度こそ電話を切って、ひと知れずリンドウは赤面したまま、しばし余韻に浸った。
本当に、ゆきと居ると最後まで余裕でいられたことがない。
厄介なお姫さまである。
だからこそ、願う。

眠れぬ夜だけじゃなくて、いついかなるときも、君の傍にいさせて。

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